脳の病気

brain conditions
Purina-Institute-発作

→特発性てんかん(IE)は、犬における慢性発作の最も多い原因で、犬と飼い主の方々に様々な悪影響 を与える場合があります。脳のグルコース代謝 が乱れると発作の頻度に影響を与えます。発作を減らしたり、発作をなくすために使用される抗てんかん薬は、副作用があるのが一般的であり、てんかん発作の頻度を減らすメリットとのバランスを考慮して使用しなければなりません。

犬のてんかんによる悪影響

特発性てんかん(IE)は、犬の生活の質を下げるだけでなく、寿命を縮める場合があります。IEを持つ犬をケアすることは、飼い主の方々の生活の質に影響を与えるため、治療法の決定にも影響を及ぼします。犬の特発性てんかんは、発作に加えて、犬の認知機能にも障害をもたらします。

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脳波(EEG)は、脳の神経インパルスの電気的な活動を表示させる非侵襲的な方法です。個人の診療所で一般的に利用可能な機器ではありませんが、てんかんのある犬は、脳波に異常がみられます。

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ある研究から、発作終了後にはストレスを測る目安としての唾液中コルチゾール値が、犬と飼い主の両方で著しく増加したことが明らかとなりました2。また別の研究では、発作頻度の増加は飼い主にとっての不安要素であるだけでなく、飼い犬のQOLを著しく低下させているという懸念にも関連していることが判明しました3

IEのある犬は、訓練能力も低下している場合があることが示されています。これは、「お座り」の指示に従うことができない、新しい芸を習得するのが遅い、注意力持続時間が短くなるなどの形で現れます。一般的な抗てんかん薬による治療が、このような行動を悪化させてしまう可能性もあります4。てんかんのある犬は、落とした食べ物を見つけられなかったり、目的なく徘徊したり、顔なじみのある人を認識する能力が低下したりします5。これは4歳未満の犬にも起こります。

最後に、IEのある犬は、対照群の犬と比べて、空間記憶課題に取り組むことが難しいことが示されています。このような犬は、犬がいる環境の中を迷子にならずに歩いて行くことが難しかったり、物の場所を記憶していることが難しかったりします6。また、IEのある犬は、高齢になると認知機能不全を発症する可能性がより高くなります5

脳のグルコース代謝と発作

てんかんのある犬や人は、脳のグルコース代謝が乱れます。これに続いて発作が起こりやすくなるだけでなく、神経変性や認知障害を起こしうる細胞障害に繋がる場合があります。エネルギー源としてのグルコースを完全に置き換えることは不可能ですが、ケトン体を代わりのエネルギー源とすることができます。 

食事由来の中鎖トリグリセリド(MCT)はケトン体の材料となるため、てんかんが代謝に与える影響を軽減します。MCTは、植物性オイルに含まれている脂肪です。MCT由来の中鎖脂肪酸であるオクタン酸も、エネルギー源として脳で代謝可能です。 

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ケトン体とMCT由来の中鎖脂肪酸は、エネルギー源としての役目に加えて、抗てんかん作用があることが示されました7~9。中鎖脂肪酸は、ミトコンドリア機能の修復も助けます。MCT由来の中鎖脂肪酸の1つであるデカン酸は、ニューロンのAMPA(アルファアミノ-3-ヒドロキシ-5-メチル-4-イソキサゾールプロピオン酸)受容体をブロックすることで、異常な電気活動のサイクルを断ち切ることを助けます。

ケトン食療法は、人間におけるてんかんを管理するために、長年にわたって、医学療法と併用して利用されています10

ピュリナの研究

ピュリナは、特発性てんかんの管理における中鎖トリグリセリド(MCT)の役割を研究しました。ロイヤル・ベテリナリー・カレッジ(ロンドン)が、IEの犬を対象にして二重盲検クロスオーバー臨床試験でMCTの補充について評価を行いました。難治性IEの犬に、3ヵ月間、対照食かMCTを補充したフードかのどちらかを与えた後、フードを交換してさらに3ヵ月間試験を続けました。犬の投薬治療は変更しませんでした。この間、投薬内容は変更しませんでした。

MCTを配合したフードでは、それまでは難治性だった犬の48%が治療に成功し(発作の頻度を50%以上低下させることに成功)、さらに、14%の犬では発作が完全になくなりました。全体として、MCT食を与えられた犬の71%に著しい改善がみられました。

MCTを補充したフードは、注意欠陥・多動性障害(ADHD)に関連する4つの行動のうち2つの行動に著しい改善がみられ、訓練能力が向上し、MCTケトン食療法には潜在的に不安軽減効果があることが示唆されています11

犬のてんかんを管理するための栄養に関するイノベーション

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どんな犬もてんかんになる可能性があります

犬のてんかんについての役に立つインフォグラフィック(情報)

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覚えておくべきキーポイント

  • MCT由来のケトン体と中鎖脂肪酸は、犬のてんかんで医学療法に併用すると、脳の代替エネルギー源になります。
  • MCT代謝由来のケトン体と中鎖脂肪酸は、抗発作作用を示す可能性があり、抗てんかん薬の効果を補完します。
  • ピュリナの研究では、MCTを補充したフードを与えた難治性てんかんの犬の3分の2以上で発作の回数が低下し、14%の犬は発作がなくなったことが示されました。
  • 特発性てんかんは、ADHD関連行動と結びつけられており、訓練能力が低下しますが、MCTを補充すると、そのような行動を改善できる可能性があります

出展元

1. Law, T. H., Davies, E. S., Pan, Y., Zanghi, B., Want, E., Volk, H. A. (2016). A randomised trial of a medium-chain TAG diet as treatment for dogs with idiopathic epilepsy. British Journal of Nutrition, 114, 1438–1447. Erratum in: British Journal of Nutrition, 2016; 115:1696

2. Packer, R. M. A., Volk, H. A., & Fowkes, R. C. (2017). Physiological reactivity to spontaneously occurring seizure activity in dogs with epilepsy and their carers. Physiology & Behavior, 177, 27–33. doi: 10.1016/j.physbeh.2017.04.008               

3. Chang, Y., Mellor, D. J., & Anderson, T. J. (2006). Idiopathic epilepsy in dogs: owners’ perspectives on management with phenobarbitone and/or potassium bromide. Journal of Small Animal Practice, 47, 574–581

4. Packer, R. M. A., McGreevy, P. D., Pergande, A., & Volk, H. A. (2018). Negative effects of epilepsy and antiepileptic drugs on the trainability of dogs with naturally occurring idiopathic epilepsy. Applied Animal Behaviour Science, 200, 106–113. doi: 10.1016/j.applanim.2017.11.008 

5. Packer, R. M. A., McGreevy, P. D., Salvin, H. E., Valenzuela, M. J., Chaplin, C. M., & Volk, H. A. (2018). Cognitive dysfunction in naturally occurring canine idiopathic epilepsy. PLOS One. doi: 10.1371/journal.pone.0192182

6. Winter, J., Packer, R. M. A., Volk, H.A. (2018c). Preliminary assessment of cognitive impairments in canine idiopathic epilepsy. Veterinary Record. 182(22), 663. doi: 10.1136/vr.104603

7. Kim, D. Y., Simeone, K. A., Simeone, T. A., Pandya, J. D., Wilke, J. C., Ahn, Y., Geddes, J. W., Sullivan, P. G., Rho, J. M. (2015). Ketone bodies mediate antiseizure effects through mitochondrial permeability transition. Annals of Neurology 78, 77–87. doi: 10.1002/ana.24424

8. Masino, S. A., Li, T., Theofilas, P., Sandau, U. S., Ruskin, D. N., Fredholm, B. B., Geiger, J. D., Aronica, E., Boison, D. (2011). A ketogenic diet suppresses seizures in mice through adenosine A₁ receptors. Journal of Clinical Investigation 121, 2679–2683. doi: 10.1172/JCI57813

9. Wlaź, P., Socała, K., Nieoczym, D., Łuszczki, J. J., Zarnowska, I., Zarnowski, T., Czuczwar, S. J., Gasior, M. (2012). Anticonvulsant profile of caprylic acid, a main constituent of the medium-chain triglyceride (MCT) ketogenic diet, in mice. Neuropharmacology 62, 1882–1889. doi: 10.1016/j.neuropharm.2011

10. Neal, E. G., Chaffe, H., Schwartz, R. H., Lawson, M. S., Edwards, N., Fitzsimmons, G. Cross, J. H. (2009). A randomized trial of classical and medium-chain triglyceride ketogenic diets in the treatment of childhood epilepsy. Epilepsia 50, 1109–1117. doi: 10.1111/j.1528-1167.2008.01870.x

11. Packer, R. M. A., Law, T. H., Davies, E., Zanghi, B., Pan, Y., & Volk, H. A. (2016). Effects of a ketogenic diet on ADHD-like behavior in dogs with idiopathic epilepsy. Epilepsy & Behavior, 55, 62–68. doi: 10.1016/j.yebeh.2015.11.014