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小脳のプルキンエ細胞

人間と同じように、ペットも高齢になると、脳において代謝・機能・物理的な数々の変化が起こります。
このような変化の多くは望ましくない変化であり、不可逆性の変化もありえます。このような変化は、ペットの学習・問題解決・記憶(認知)機能に影響を与える場合もあります。しかし、ペットを注意深く観察しているオーナーの方でも、ペットの行動に突然変化が現れるまでは、このような認知機能の低下を認識できないかもしれません。

幸いなことに、シニア期でも行動パターンの老化には出来ることがあります。 ピュリナの研究により、 中鎖トリグリセリド(MCT)を配合した療法食やその他の栄養調整を施そのため、飼い犬が中年期を迎えた時というのは、獣医師にとってペットオーナーの方々と老化やシニア期の異常サイン、健康な脳を維持するための対策について話し合うべきタイミングなのです。したがって、犬の中年期は、老化、異常な老化の兆候、健康な脳を促進するための対策について、獣医師の先生方がペットオーナーの方々とコミュニケーションを始める時期となります。
高齢期のペットとの暮らしで注意すべきポイント
これは、日本語訳のない英語のビデオへのリンクです。

脳のMRI像
加齢に伴う脳の変化
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加齢に伴う脳の物理的変化:
- 局所における脳組織の萎縮(縮小)
- 脳室容積の増加
- ニューロンやシナプスの喪失と、ニューロン新生の減少
- 異常たんぱく質の蓄積
その他の重大な変化:
- グルコース利用能の低下
- 慢性炎症
- 血管の変化
- 髄鞘の減少・劣化
- アストロサイトや神経膠細胞の異常
- 異常なもしくは損傷を受けたたんぱく質の破壊・除去機能障害
- 遺伝子発現における変化
犬と猫の加齢に伴う行動変化
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
→認知機能の低下に伴って見られる行動には、不安行動の増加と対処能力の低下(破壊行動を含む)、脅迫行動、混乱、社会性の変化、見当識障害、睡眠サイクルの変化、学習記憶能力の低下、食事の時間を予測する能力の低下、粗相、食事行動の変化等があります。
加齢性変化を抑制するための栄養学
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加齢性の脳の変化を対象とした栄養学的な介入により、認知機能低下を引き起こす不可逆性変化の負のスパイラルを軽減できる可能性があります。様々な栄養素を組み合わせることで、単体で得られる効果よりも、多くのメリットを得られる可能性もあります。
抗酸化物質
抗酸化物質には、フリーラジカルの形成を防ぐ、あるいはフリーラジカルが害を与える前にフリーラジカルを除去するなど、フリーラジカルを一掃する、幅広い種類の物質が含まれます。体内でも抗酸化物質を生成しますが(内因性抗酸化物質)、内因性抗酸化物質の量は加齢と共に減少し、フリーラジカルの量は加齢と共に増加するので、バランスが崩れて危険な状態になります(酸化ストレス)。抗酸化物質をフードとして提供することで、バランスを整え、酸化によるダメージを低減させます。
魚油
特にオメガ3脂肪酸であるドコサヘキサエン酸(DHA)とエイコサペンタエン酸(EPA)は、神経保護と抗炎症作用において重要な役割を担っています。魚油はDHAとEPAの優れた供給源です。
アルギニン
L-アルギニンは必須アミノ酸で、ニューロンなどの細胞で代謝され、一酸化窒素(NO)を生成します。認知タスクを実行中の神経活動は、局所の血流量の増加との関連性が極めて高く、血流量の増加には主にNOが関与しています。L-アルギニンは、代謝により神経伝達物質であるアグマチンも生成します。
ビタミンB群
ある種のビタミンB群、特にチアミン(B1)、ピリドキシン(B6)、葉酸(B9)、コバラミン(B12)は、神経発達と認知機能にとって極めて重要です。 ビタミンB欠乏症は、アミノ酸のホモシステインの血中濃度を上昇させ、これは認知機能障害のリスクファクターの1つとなっています。ビタミンBの補充により、ビタミンB欠乏症とホモシステイン蓄積のリスクを低減し、その結果、認知機能障害のリスクファクターの1つを軽減することができます。
中鎖トリグリセリド由来のケトン体
成熟動物の脳は、エネルギー源をグルコースに依存しています。加齢と共に、ブドウ糖が存在するにもかかわらず、脳がブドウ糖をエネルギー源として利用する能力が低下します。脳はエネルギー要求量が高いため、エネルギー供給不足の影響をより受けやすくなります。脳のグルコース代謝が減少すると、連鎖反応を引き起こし、最終的には脳細胞の壊死や、不可逆的な脳質量の喪失、身体的もしくは行動学的な変化を引き起こす可能性があります。
グルコース代謝が阻害された場合、神経細胞は通常の機能をサポートするための代わりとなるエネルギー源が必要となる場合があります。 脳におけるグルコース代謝は加齢と共に低下しますが、脳におけるケトン代謝は影響を受けないと考えられ、栄養療法に利用できます。ケトン体は、長時間の絶食中、利用可能なグルコースが少ない状況下でも、最大で脳のエネルギーの60~70%を提供することができます。6
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ケトン体は、エネルギー源となるだけでなく、神経保護作用もあります。ケトン体は、酸化ストレスを引き起こす活性酸素(ROS)の生成を低下させ、ミトコンドリア新生(新しいミトコンドリアの形成)によりシナプス機能の調節を強化し、有益な多価不飽和脂肪酸の合成を促進します。ケトン体はミトコンドリア機能を活性化し、異常なたんぱく質の除去を促進します。
食事由来の中鎖トリグリセリド(MCT)は、ケトン体に代謝されます。MCTは、ココナッツオイルなどの植物性オイルに含まれている脂質です。MCTを構成する中鎖脂肪酸もエネルギーを提供し、ミトコンドリア機能を回復させ、細胞の代謝と機能に長期にわたるメリットを提供します。
Purina の研究
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ピュリナの研究では、魚油、抗酸化物質、アルギニ
ン、ビタミンB群を混合して補充したフードを給与された犬は、問題解 決能力の評価において、より複雑なタスクになった際でもミスが少なかったことが示されました。 8

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猫における最適な認知機能を守る
ピュリナの研究では、試験食(魚油、抗酸化物質、ビタミンB群、アルギニンを配合したフード) を給与された猫は、記憶力、学習力、精神的順応性、物体識別能力を評価する認知機能試験において、成績がより優れていました9。この試験では、問題解決能力と視覚学習能力においても、ミスがより少ない結果が示されました。
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脳研究における最新情報
覚えておくべき重要な点
- 中年期のペットの脳における、加齢に伴う物理的・代謝的・機能的変化は、シニアペットの認知機能障害や認知機能不全を引き起こすきっかけとなり、このような変化の重篤度と進度が、中年期以降のペットの脳の健康を左右します。
- 脳が老化すると、ブドウ糖利用における変化と、ミトコンドリア機能障害が原因で、エネルギー代謝の効率が低下します。
- 高齢になったペットの飼い主の方々は、加齢に伴う脳の変化によって引き起こされる行動上の変化に気付くまでは、ペットが「シニア(高齢)」だとは認識しないかもしれません。
- ピュリナは、脳の老化のリスクファクターを対象とする栄養素を配合することで、成猫や成犬における認知機能を最適に保てることを証明しました。
- 中年期は、異常な老化の兆候を知る方法や脳の健康を促進させる方法など、ペットの加齢についてペットオーナーの方々と話を始める時期です。
詳しく知る
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2. Landsberg, G. M., Nichol, J., & Araujo, J. A. (2012). Cognitive dysfunction syndrome: a disease of canine and feline brain aging. Veterinary Clinics of North America Small Animal Practice, 42, 749–768. doi: 10.1016/j.cvsm.2012.04.003
3. London, E. D., Ohata, M., Takei, H., French, A. W., & Rapoport, S. I. (1983). Regional cerebral metabolic rate for glucose in beagle dogs of different ages. Neurobiology of Aging, 4, 121–126
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5. Cory, J. (2013). Identification and management of cognitive decline in companion animals and the comparisons with Alzheimer disease: A review. Journal of Veterinary Behavior: Clinical Applications and Research, 8, 291–301
6. Nugent, S., Tremblay, S., Chen, K. W., Ayutyanont, N., Roontiva, A., Castellano, C.-A. & Cunnane, S. C. (2014). https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24388785 Brain glucose and acetoacetate metabolism: a comparison of young and older adults. Neurobiology of Aging, 35, 1386–1395. doi: 10.1016/j.neurobiolaging.2013.11.027
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8. Pan, Y., Kennedy, A. D., Jonsson, T. J., & Milgram N. W. (2018). Cognitive enhancement in old dogs from dietary supplementation with a nutrient blend containing arginine, antioxidants, B vitamins and fish oil. British Journal of Nutrition, 119, 349–358. doi: 10.1017/S0007114517003464
9. Pan, Y., Araujo, J. A., Burrows, J., de Rivera, C., Gore, A., Bhatnagar, S., & Milgram, N. W. (2013). Cognitive enhancement in middle-aged and old cats with dietary supplementation with a nutrient blend containing fish oil, B vitamins, antioxidants and arginine. British Journal of Nutrition, 110, 40–49. doi: 10.1017/S0007114512004771