心臓の健康は、ペットの全般的な健康の状態によって決まります。犬や猫の理想的な体調を維持することは、ペットを幸せにするための基本となります。日常的に行う臨床検査に栄養状態の評価 を組み込むことは、飼い主様がこの健康目標を達成する上で役立ちます。
心臓の健康に着目すると、心機能のサポートに栄養が重要な役目を果たす可能性があります。
具体的に、栄養素がどのようにして心臓に良い影響を与えるのでしょうか?詳しく見てみましょう。
脂肪酸
これらの栄養素はミトコンドリアにより利用される主要な基質であり、アデノシン三リン酸(ATP)の形で心臓のためのエネルギーを生み出します。
しかし、ミトコンドリアは代謝的に柔軟であるため、栄養素の使用状況、心臓の仕事量の変化、あるいは代謝状況の変化に適応して、様々な基質を利用します。 その他のエネルギー源には、グルコース、ケトン、および分枝鎖アミノ酸(BCSS)などがあります。1–3
MCT は中鎖脂肪酸(MCFA)の供給源です。短い炭素鎖を持つ MCFA は、ミトコンドリアへの取り込みの際に輸送体を必要としません。関与する代謝段階が少ないため、MCFAはより迅速に酸化されエネルギーとなります。4
研究から、MCT がミトコンドリアおよび細胞質の活性酸素種を減少させることが報告されており、これは心疾患の進行に良い影響を与えます。5–8
研究により、長鎖オメガ 3 脂肪酸、とりわけエイコサペンタエン酸(EPA)には、心臓にとっての多数のメリットがあることが報告されており、炎症性メディエーターや酸化ストレスの減少、犬の心不整脈の安定化、血圧の低下、および心疾患における心臓リモデリングの減少に役立ちます。9–17
心臓悪液質は、うっ血性心不全の犬でよく見られ、除脂肪体重の減少は短い生存期間との間に顕著な関連性があります。18–19 炎症は、悪液質の原因または寄与因子であると考えられています。したがって、オメガ 3 脂肪酸のもう 1 つの有益性として、炎症の除脂肪体重への悪影響を減少させる可能性もあります。20–22
タウリンは、心臓組織で最も豊富な脂肪酸です。タウリンの正確な役割はまだ明らかになっていませんが、研究から、タウリンが心筋の収縮性と恒常性の維持にとって重要であることが報告されています。23–25 猫では、タウリンは必須アミノ酸ですが、タウリン欠乏は犬・猫のいずれにおいても心筋障害につながることがあります。26
リジンとメチオニンは、ATP 産生の際に長鎖脂肪酸をミトコンドリアへと輸送するのを助けるペプチドであるカルニチンを合成するためのアミノ酸前駆体です。27
細胞の代謝の結果、活性酸素種(ROS)が産生されます。しかし、ROS が蓄積すると、酸化ストレスが増加し、細胞膜損傷、DNA 損傷、およびタンパク質の変性につながります。過剰な ROS は、心疾患の寄与因子となる一連の分子イベントを引き起こします。ビタミン E は細胞にとっての抗酸化物質であり、ROS を除去して、酸化ストレスによる損傷を防ぎます。
心不全の寄与因子となるミトコンドリア機能障害の状況下では、ROS レベルが上昇し、抗酸化物質の必要性が増します。28–32
マグネシウムには、抗不整脈および抗酸化作用など、健康な心機能を維持するうえで複数の役割があります。心臓の細胞においては、ATP の輸送も助けます。ヒトにおいてマグネシウム不足は、心不全および心血管疾患のリスク上昇と相関しています。33–36
Purina の研究により、老化した心臓に栄養が良い影響を与える仕組みが明らかになりました。
老化した心臓は、若齢の心臓のように疾患や環境の変化に適応できません。研究から、老化の加速に関連する数々の変化の一つとして、Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路と呼ばれる特定の分子カスケードが増加することが明らかとなっています。37–39
Purinaの科学者は、老化した心臓の遺伝子発現に関する公開データの収集を行いました。40, 41
この計算論的アプローチにより、高齢の心臓では、Wntシグナル伝達経路の 4 つの遺伝子がダウンレギュレーションされていることが明らかとなりました。
しかし、カロリー制限または抗酸化物質レスベラトロールのを加えた食事介入により、遺伝子発現が若齢の心臓で見られるレベルにまで回復しました。42–43
この研究により、分子レベルで老化した心臓に栄養が良い影響を与える仕組みが明らかとなり、特定の栄養素を用いて心機能をサポートまたは改善できる方法を探索する研究につながりました。