微生物叢の基礎知識

微生物叢の基礎知識のバナー

従来、微生物の同定は培養に基づく方法に依存していました。この方法には、微生物叢内のすべての生物を培養することができないなど、大きな制約がありました。1-3

培養に基づく方法による in vitro 環境では、すべての微生物が生き残ることができるわけではありません。1

次世代型の分子法では、分類、相対存在量、機能を同定するために、生物の代用として細菌 DNA 配列が使われます。1,4-6最も一般的に用いられる方法の概要を以下に示します。

微生物叢の測定のアイコン

微生物叢の測定に一般的に用いられる方法の概要

 

 

16s rRNA 遺伝子配列決定法
ショットガンメタゲノム配列決定法
qPCR(イヌのディスバイオシスインデックスを評価するために用いられるものを含む)の図

アンプリコンに基づくマーカー遺伝子配列決定法

最も一般的に行われるアプローチは、16S リボソーム RNA(rRNA)遺伝子の配列決定法です。この遺伝子はすべての細菌と古細菌に存在しますが、真菌や動物界には存在しません。このアプローチは、サンプル内の細菌の全数調査で行われます。1,4,716S rRNA 遺伝子を代わりに用いて、微生物叢の同定を行います。7

16S rRNA 遺伝子は、細菌全体高度に保存されており、分化が可能な超可変領域が含まれています。1このアプローチにより、培養できない微生物も含め、サンプル内の多数の微生物の同定が可能になります。1しかし、この手法では、微生物が生きているか死んでいるか、一過性か定常性か、共生性か病原性か、または抗生物質に対して耐性があるか過敏かの区別がつきません。1

定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)

定量的 PCR は、関心対象である特定の細菌分類群を迅速かつ安価に定量する方法であり、基準範囲を求めることもできます。治療に反応して生じた微生物叢の変化を追跡するために、7 つの細菌種の qPCR に基づき、イヌ微生物叢のディスバイオシス胃インデックスが開発されました。3

日本語の翻訳版のない英語の記事へのリンクです。

「細菌の全数調査」に関する説明

OTU(Operational Taxonomic Unit)とは、類似性に基づいて分類した DNA 配列のまとまり(クラスター)をいいます。各 OTU の代表的な配列を基準データベースと比較し、そのクラスター内の微生物の同定を決定します。

α多様性β多様性は、微生物叢内の種の範囲を指します。α多様性は、サンプル中の多様性を表す尺度です。1α多様性は、豊富さ(種/OTU 数およびその分布)および均等度(異なる OTU/種の数の相対存在量とその分布)を考慮に入れます。α多様性はアルゴリズムに基づき、一般的に Shannon 指数や Simpson 指数などの指数として表現されます。1β多様性は、サンプル間の非類似度を表す尺度であり、多くの場合、クラスターのパターンで表されます。β多様性の計算に使われるシステムには、Bray-Curtis、Unweighted または Weighted UniFrac などがあります。1

全数調査から機能への研究対象の拡大

研究が進むにつれ、微生物叢について 2 つの大きな疑問がわいてきました。それは、どのような微生物が存在しているのか、その微生物は何をしているのかという疑問でした。微生物叢に存在している微生物の同定では、その機能に関する情報は得られません。3,5ある種の代謝機能や分子機能は 2 つ以上の微生物によって行われている可能性が高いため、柔軟性と強靭さを確保するために、冗長性のある生態系が形成されていると考えられます。3,8

こうした冗長性により、その集団に存在する微生物種に基づく微生物叢の解析だけでは、微生物叢の機能的変化を検出するには不十分です。微生物の相対存在量は介入や条件によって変化する場合も変化しない場合もあります。しかし、存在する微生物叢は、補正するために微生物の活動と代謝を変える可能性があります。このような変化を検出するには、異なる分析法が必要になります。 

ショットガンメタゲノム配列決定法

ショットガン法は、標的を定めない(あらかじめ決められた微生物の存在の検出を意図していない)ことから、このように命名されている手法で、ペットの微生物叢解で幅広く用いられるようになっています。この手法は、単純に細菌を同定する方法とは異なり、機能的な遺伝子の配列を決定するという利点を持っています。3-5ただし、この手法は、サンプル中の DNA が大量に必要なため、費用も多額になります。3

ロングリードシークエンシングにより、ショートリードメタゲノミクスでは見落とされがちは遺伝子も含め、完全なゲノムのアセンブリが容易になり、さらなる生物学的な洞察も得られます。6

メタボロミクス、プロテオミクス、トランスクリプトミクス

これらのプロセスは、微生物叢の中の機能活性を測定するものです。4メタボロミクスのアプローチは、代謝産物プロファイルを決定するために用いられます。代謝産物プロファイルは、通常、核磁気共鳴法、分光法、質量分光法、液体クロマトグラフィーなどのプロセスにより、特性が明らかになります。7これらのアプローチにより、短鎖脂肪酸の産生、胆汁酸の代謝、神経伝達物質の産生、インドールの産生など、微生物によって調節される経路を調べることができます。3

微生物叢フォーラムの他の領域を見る

微生物叢中心のサムネイル

ペットの健康状態を改善する微生物叢を中心とした介入

Nestlé のリーダーシップのサムネイル

微生物叢分野における Nestlé と Purina のリーダーシップ

詳しく知る

  1. Belas, A., Marques, C., & Pomba, C. (2020).The gut microbiome and antimicrobial resistance in companion animals. In Duarte, A. & Lopes da Costa, L. (Eds.), Advances in Animal Health, Medicine and Production (1st ed.), pp. 233—245. Springer International Publishing
  2. Cunningham, M., Azcarate-Peril, M. A., Barnard, A., Benoit, V., Grimaldi, R., Guyonnet, D.,…Gibson, G. R. (2021). Shaping the future of probiotics and prebiotics. Trends in Microbiology, 29(8), 667—685. doi:10.1016/j.tim.2021.01.003
  3. Pilla, R., & Suchodolski, J. S. (2021). The gut microbiome of dogs and cats, and the influence of diet. Veterinary Clinics of North America Small Animal Practice, 51(3), 605–621. doi:10.1016/j.cvsm.2021.01.002
  4. Bokulich, N. A., Ziemski, M., Robeson, M. S., & Kaehler, B. D. (2020). Measuring the microbiome: Best practices for developing and benchmarking microbiomics methods. Computational and Structural Biotechnology Journal, 18, 4048–4062. doi:10.1016/j.csbj.2020.11.049
  5. Radjabzadeh, D., Uitterlinden, A. G., & Kraaij, R. (2017). Microbiome measurement: Possibilities and pitfalls. Best Practice & Research Clinical Gastroenterology, 31, 619–623. doi:10.1016/j.bpg.2017.10.008
  6. Cusco, A., Pérez, D., Viñes, J., Fàbregas, N., & Francino, O. (2020). Long-read metagenomics retrieve complete single-contig bacterial genomes from canine feces. In review, BMC Genomics. doi:10.21203/rs.3.rs-135952/v1
  7. Marchesi, J. R. & Ravel, J. (2015).The vocabulary of microbiome research: a proposal. Microbiome, 3, 31. doi:10.1186/s40168-015-0095-5
  8. Koidl, L., & Untersmayr, E. (2021). The clinical implications of the microbiome in the development of allergy diseases. Expert Review of Clinical Immunology, 17, 115—126. doi:10.1080/1744666X.2021.1874353