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治療のための栄養学​

栄養の影響を受けやすい健康状態の犬・猫のニーズに関する有用な情報。

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肝機能障害

猫の胆管炎

猫の胆管炎は、胆管のみならず、場合によってはその周辺の肝組織も影響を受ける炎症性肝疾患です。1,2 世界小動物獣医師会(WSAVA)の作成したグローバル・スタンダード​では、猫の胆管炎を好中球性、リンパ球性、肺吸虫による感染性​の 3 種類に分類しています。1

好中球性およびリンパ球性胆管炎の猫では、一般的に、食欲不振(ただしリンパ球​性胆管炎の猫では代わりに過食​になることもある)、体重減少、元気消失​、嘔吐、下痢という類似した徴候が見られます。脱水症状や黄疸を起こすことも​あります。通常、好中球性胆管炎は急性であり、リンパ球性胆管炎の発症が数週間から数ヵ月かかるのに比べ、1~2 週間で発症します。肝吸虫による慢性胆管炎は、熱帯地域や亜熱帯地域で見られ、その多くは無症状です。1

好中球性胆管炎は、慢性腸疾患膵炎(急性または慢性)に関連して発生する場合があります。好中球性胆管炎の猫の約 25% は、3 つの病気が複合した三臓器炎​と診断されます。2

胆管炎の猫は、食欲不振と体重減少により、肝リピドーシスを発症するリスクが高くなります。獣医学的治療​に加え、集中的な栄養サポートが不可欠です。

キーメッセージ


  • ペットの状態​を安定させるために、​脱水や電解質異常を補正します。できるだけ早く集中的な栄養サポートを開始します。​3
    • 栄養チューブを留置​すると、容易に栄養補給を行うことが​できます。シリンジの使用や「強制給餌」は余計なストレスを与えることになり、食物嫌悪や誤嚥の発生につながるおそれがあるため、できる限り避けてください。4
      • 経鼻栄養チューブは、鎮静なしで挿入後すぐに使用できるため、初期の栄養サポート​に最適な方法です。このチューブは小径であるため、流動食のみに使用できます。​
      • 麻酔をかけられる​場合は、食道瘻チューブは​すばやく留置​できるため、ほとんどの猫に適応することが​できます。(食道瘻チューブ挿入の手順概要については、オンラインで公開されている専門医​による動画をご覧ください。)また、胃瘻チューブも適切な選択肢です。4
    • 安静時エネルギー要求量(RER)= 70 × 体重(kg)0.75 を計算し、フードの給与量​を決めます。3 1 日目は RERの1/3​ 量を 6~8 回に分けて給与​し、その後数日かけて徐々に増やしていき、最後には RER の全量を与えるように​します。10~15 分かけてゆっくりと給与​し、よだれや舌なめずりなど、嘔吐の徴候がないか観察します。そうした徴候が見られた場合は食事​をいったん停止し、徴候がなくなってから再開します。1 回の食事​量を増やしていき、徐々に給与​回数を減らしていきます。3,4
    • 食事​を過剰に与えたり、量を急に増やしたりしないように注意します。特に開始当初は、リフィーディング症候群の原因になるおそれがあります。
      • リフィーディング症候群を発症すると、カリウム、リン、マグネシウムの血中濃度が急激に低下します。これらの血清中濃度を注意深くモニタリングし、必要に応じて補正を行います。​3,5
    • ペットに肝性脳症​の徴候がない限り、高タンパク質(代謝エネルギー[ME]の 40~50%)を含む高カロリー療法食(集中治療用または回復用の療法食など)を与えます。必要に応じて、フードに少量の水または流動食を混ぜ、栄養チューブを容易に通過できる粘度にします。使用​前後に必ずチューブに水を通して​すすぎます。
    • 栄養チューブを挿入したまま猫を退院させる場合は、退院前に正しい使用方法と看護方法について飼い主に伝えるようにします。​動物病院で飼い主に実際の使用方法を練習​させることにより、飼い主の不安が解消される場合があります。家庭で自発的な食事​摂取を促す必要があるため、栄養チューブによる食事​の前に、さまざまな猫用ドライフードやウェットフード​を与えるようにします。​フードを室温にまで温め、匂いと味が引き立つ​ようにします。猫が通常の総合栄養食​を確実に摂取できるようになったら、栄養チューブを取りはずすことができます。
  • 次の栄養素の補給を検討します。5,6
    • カルニチン:遊離脂肪酸の輸送に必要であり、脂質の代謝をサポートする​働き​があります。
    • ビタミン K:凝固系の数値​が異常な場合補給します。​
    • ビタミン B 群:肝臓内のエネルギー代謝を助けます。特に、ビタミンB12は​食欲を刺激する働き​があります。
    • ビタミン E:胆汁うっ滞に続発する酸化ダメージ​の軽減に役立つ​可能性があります。
    • オメガ 3 脂肪酸の(EPA、DHA):​炎症を軽減に役立つ​働き​があります。
  • 体重、ボディコンディションスコアマッスルコンディションスコアをモニタリングします。猫の一般状態が安定し、食欲が回復したら、​必要に応じてフードの種類​や食事量​を調整できます。
カンバセーション・スターター
会話のきっかけ

「胆管炎の猫はほとんどが、十分な量を自力では食べられません。そのため、猫の健康状態を安定させるには、栄養チューブの使用が最良の選択肢になります。この方法を怖いと思われるかもしれませんが、食道瘻チューブの留置は簡単な処置で、通常の猫なら十分に耐えられるものです。猫ちゃんが帰宅できる状態になったら、食餌の準備方法、栄養チューブを使用した給餌方法、栄養チューブの手入れ方法をお教えします。やり方は簡単です。安心して猫ちゃんをご家庭に連れて帰っていただけると思いますよ」

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参考文献

  1. Boland, L., & Beatty, J. (2016). Feline cholangitis. Veterinary Clinics of North America: Small Animal Practice, 47, 703–724. doi: 10.1016/j.cvsm.2016.11.015
  2. Reed, N. (2021). Feline inflammatory liver disease. In D. Bruyette (Ed.), Clinical small animal internal medicine (pp. 687–693). John Wiley & Sons, Inc. doi: 10.1002/9781119501237.ch63
  3. Valtolina, C., & Favier, R. P. (2017). Feline hepatic lipidosis. Veterinary Clinics of North America: Small Animal Practice, 47(3), 683–702. doi: 10.1016/j.cvsm.2016.11.014
  4. Webb, C. B. (2018). Hepatic lipidosis: Clinical review drawn from collective effort. Journal of Feline Medicine and Surgery, 20, 217–227. doi: 10.1177/1098612X18758591
  5. Norton, R. D. (2016). Nutritional considerations for dogs and cats with liver disease. Journal of the American Animal Hospital Association, 52(1), 1–7. doi: 10.5326/JAAHA-MS-6292R2
  6. Center, S. A. (1998). Nutritional support for dogs and cats with hepatobiliary disease. Journal of Nutrition, 128(12 Suppl), 2733S–2746S. doi: 10.1093/jn/128.12.2733S