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治療のための栄養

栄養の影響を受けやすい健康状態の犬・猫のニーズに関する有用な情報。

膵疾患

犬の糖尿病

糖尿病の犬に対する治療の基礎となるのは、食餌の見直しに加え、インスリンの投与です。糖尿病の犬はほとんどの場合、ヒトの 1 型糖尿病と同じく、膵ベータ細胞の破壊に起因する絶対的インスリン欠乏が見られます。このような犬には生涯、外因性インスリンが必要になりますが、それでも栄養は糖尿病の管理には重要です。

肥満、加齢、特定の健康状態(副腎皮質機能亢進症、甲状腺機能低下症、高トリグリセリド血症、膵炎など)によるインスリン抵抗性、および遺伝的特質は、犬の糖尿病のリスク増大や糖尿病管理での課題に関与しています1,2。また、去勢していない雄犬と比べ、去勢した雄犬と避妊手術を受けていない雌犬の方が糖尿病の発症リスクが高くなります。

犬の糖尿病の典型的な臨床徴候は、多尿症多飲症多食症、および体重減少です。通常、徴候の始まりはとらえにくく、数週間から数ヵ月かけて発症していき、初期のうちは飼い主が気づかないことがあります。

青緑色の膵臓のアイコン

食餌管理の目的は次のとおりです。

  • 低血糖を避けながら、血糖コントロールの調節を助け、糖尿病の臨床徴候を管理すること
  • 健康的な体調と筋肉量を獲得し、維持すること
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糖尿病と急性または慢性の膵炎の併発のエビデンスは、糖尿病の犬の 28%~40% に認められています。膵炎はインスリン抵抗性を高めるだけでなく、糖尿病性ケトアシドーシスのリスクと有意に相関しています3

キーメッセージ


  • 新たに診断された犬では、糖尿病管理の最初の目標は、インスリン投与と食餌による高血糖症の低減とコントロールです。 
    • インスリン療法に伴う重要な合併症は、低血糖症、つまり血中グルコース濃度の極端な低下です。犬の場合、血中グルコース値が 60 mg/dL(3.3 mmol/L)を下回ることとされています4
    • 低血糖症には次のような徴候があり、突然起こりることがあります。 
      • 脱力
      • 強い嗜眠
      • 筋肉収縮
      • ふるえ
      • 運動失調
      • 異常行動
      • 痙攣発作
      • 虚脱
      • 昏睡
  • 基礎疾患の病因が異なるため、糖尿病の犬の栄養管理は、糖尿病の猫とは異なります。 
    • 健康な犬では、完全なドッグフードのデンプン(可消化性炭水化物)含有量が、食後のグルコースとインスリン反応の主な決定因子になります5─7 
    • 糖尿病の犬では、食物デンプンの量や由来によって食後のグルコース値が変化することがあります8,9
    • 可溶性および不溶性の食物繊維を増やすと、食後高血糖症が低減され、カロリー含有量が小さくなります1,10
  • 食餌に関する推奨事項は、ボディコンディションスコア、体重、食品の受容性、運動、おやつなど、個別の要因によって異なります。肥満を解消し(適応がある場合)、体調を良好にして、食後高血糖症を最小限に抑える食餌が推奨されます
    • 合併症のない糖尿病の犬では、適度な食物繊維成分を含む、味がよく栄養バランスのとれた食餌で効果があります。重要な点は、インスリンと栄養吸収が調和して機能するよう、一定の摂取を確実に続けることです1
    • 低体重の糖尿病の犬では、適度な量の可溶性と不溶性の両方の食物繊維を含み、カロリーの高い食餌の方が効果を得られます。
    • 慢性膵炎または持続性高トリグリセリド血症を併発した糖尿病の犬では、痩せた身体状態の場合を除き、食餌の脂肪分の制限(代謝エネルギー[ME]の 30% 未満)が推奨されます11
  • 血糖コントロールが一度定着すれば、管理下にある肥満型の犬の体重減少は、インスリン感受性の改善を助けます。 
    • 目標とする体重減少率は 1 週あたり体重の 1%~2% です1
    • 減量を必要とする過体重の肥満型糖尿病の犬では、体重管理のために治療用食餌で、栄養不足のリスクを低減します。治療用食餌は低いカロリー摂取量で、栄養的に完全でバランスがとれるように調製されているためです12
    • 肥満型の犬は減量によって、健康な血中グルコース濃度を維持するために必要なインスリン量を減らせる場合もあります。
  • 同量の食餌を 1 日 2 回、インスリン投与時に与えてください。
  • 効果的な糖尿病の観察には、臨床徴候をチェックすることが重要です
    • 飼い主は自宅で、水摂取量、尿量、食欲、体調を観察することができます。
    • 獣医医療チームは、糖尿病の全症例について定期的に筋肉量、体重、体調を観察することになります。
    • 急激な、または予定外の体重減少は、糖尿病のコントロールが不十分である兆候です。
  • 併発症(膵炎、腎疾患、腸疾患など)がある場合は、食餌の推奨事項を必要に応じて調整してください。
会話の手始めの背景画像

[犬の名前]は糖尿病を発症していて、膵臓からインスリンが十分に分泌されていません。その結果、血流中に血糖がたまっていき、お気づきのように、最後には尿量、飲む水の量、食べる量が増えていきます。インスリン投与を開始する他、[犬の名前]には食物繊維の豊富な食餌で血中グルコースをコントロールしやすくすることをお勧めします。血中グルコースを調節できたら、[犬の名前]の体調と体重の管理をはじめましょう。

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参考文献

  1. Behrend, E., Holford, A., Lathan, P., Rucinsky, R., Schulman, R. (2018). 2018 AAHA diabetes management guidelines for dogs and cats. Journal of the American Animal Hospital Association, 54(1), 1─21. doi: 10.5326/JAAHA-MS-6822
  2. Heeley, A. M., O’Neill, D. G., Davison, L. J., Church, D. B., Corless, E. K., & Brodbelt, D. C. (2020). Diabetes mellitus in dogs attending UK primary-care practices: Frequency, risk factors and survival. Canine Medicine and Genetics, 7, Article 6. doi: 10.1186/s40575-020-00087-7
  3. Davison, L. J. (2015). Diabetes mellitus and pancreatitis—cause or effect? Journal of Small Animal Practice, 56(1), 50─59. doi: 10.1111/jsap.12295
  4. Idowu, O., & Heading, K. (2018). Hypoglycemia in dogs: Causes, management, and diagnosis. Canadian Veterinary Journal, 59(6), 642─649.
  5. Carciofi, A. C., Takakura, F. S., de-Oliveira, L. D., Teshima, E., Jeremias, J. T., Brunetto, M. A., & Prada, F. (2008). Effects of six carbohydrate sources on dog diet digestibility and post-prandial glucose and insulin response. Journal of Animal Physiology and Animal Nutrition, 92(3), 326─336. doi: 10.1111/j.1439-0396.2007.00794.x
  6. Elliott, K. F., Rand, J. S., Fleeman, L. M., Morton, J. M., Litster, A. L., Biourge, V. C., & Markwell, P. J. (2012). A diet lower in digestible carbohydrate results in lower postprandial glucose concentrations compared with a traditional canine diabetes diet and an adult maintenance diet in healthy dogs. Research in Veterinary Science, 93(1), 288─295. doi: 10.1016/j.rvsc.2011.07.032
  7. Nguyen, P., Dumon, H., Biourge, V., & Pouteau, E. (1998). Glycemic and insulinemic responses after ingestion of commercial foods in healthy dogs: Influence of food composition. Journal of Nutrition, 128(12 Suppl), 2654S─2658S. doi: 10.1093/jn/128.12.2654S
  8. Teixeira, F. A., Machado, D. P., Jeremias, J. T., Queiroz, M. R., Pontieri, C., & Brunetto, M. A. (2020). Starch sources influence lipidaemia of diabetic dogs. BMC Veterinary Research, 16(1), 2. doi: 10.1186/s12917-019-2224-y
  9. Teshima, E., Brunetto, M. A., Teixeira, F. A., Gomes, M., Lucas, S., Pereira, G. T., & Carciofi, A. C. (2021). Influence of type of starch and feeding management on glycaemic control in diabetic dogs. Journal of Animal Physiology and Animal Nutrition. Advance online publication. https://doi.org/10.1111/jpn.13556
  10. Kimmel, S. E., Michel, K. E., Hess, R. S., & Ward, C. R. (2000). Effects of insoluble and soluble dietary fiber on glycemic control in dogs with naturally occurring insulin-dependent diabetes mellitus. Journal of the American Veterinary Medical Association, 216(7), 1076─1081. doi: 10.2460/javma.2000.216.1076
  11. Fleeman, L. M., Rand, J. S., & Markwell, P. J. (2009). Lack of advantage of high-fibre, moderate-carbohydrate diets in dogs with stabilised diabetes. Journal of Small Animal Practice, 50(11), 604─614. doi: 10.1111/j.1748-5827.2009.00817.x
  12. Gaylord, L., Remillard, R., & Saker, K. (2018). Risk of nutritional deficiencies for dogs on a weight loss plan. Journal of Small Animal Practice, 59(11), 695–703. doi: 10.1111/jsap.12913